C’est pas faux をどう訳す?|映画字幕のフランス語

映画『あしたは最高のはじまり』をイメージした黒人の父と娘 翻訳の思考
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Coucou ! ほたです。

せっかく字幕や吹替の翻訳を専門的に学んだので、これをフランス語学習に活かさないと!ということで新しいシリーズ始めます。

フランス映画の字幕から「なぜこの日本語になったんだろう? 面白い!」と思ったものを、字幕翻訳の目線で考えてみるシリーズです。

 

さっそく、今回の映画はこちら。

『あしたは最高のはじまり』

予告編にちょうど今回のシーンがあります。
0分32秒~(予告と本編は字幕が違います※後述)

映画の概要

『あしたは最高のはじまり』(原題 Demain Tout Commence)は、2016年のフランスのコメディ映画。

監督はユーゴ・ジェラン、主演はオマール・シー。

 

あらすじ

プレイボーイのサミュエルのもとに、突然一夜を共にした女性が現れ「あなたの娘」だという赤ん坊を置き去りにする。子育てに奮闘するサミュエルだったが、8年後に母親が現れて…。

映画はアマゾンプライムで観られます。

 

シーン解説

ロンドンに来た主人公サミュエルが、のちに相棒になるベルニーと初めて出会うシーン。

エスカレーターで話しているので、右に寄らないとダメだと、ベルニーがサミュエルをグイッと引き寄せます。ガタイの良い成人男性2人が異様に密着したままの会話。

 

フランス語原文

サミュエル
On n’est pas un peu près là ?

ベルニー
C’est pas faux.

 

日本語字幕

サミュエル
「近すぎないか?」

ベルニー
「そうね」

 

直訳

「自分たち、ちょっと近くないかな?」

「それは間違いではない」

 

なぜこの訳になった?

ここからは、字幕翻訳を学んだ私が「もし自分ならどう訳す?」という視点で見ていきます。

(字幕翻訳そのものについては、こちらの記事で詳しく書いています↓)

「映画の翻訳」はキラキラしてない!泥臭い字幕作りのリアル
映像翻訳家養成コースで思い知ったのは、語学力と翻訳力の決定的な違い。厳しい字数制限との格闘やリサーチの狂気。泥臭いけれど熱い「字幕翻訳」の世界と、AIには代替できない「最適解」を導き出す価値について語ります。

 

①映像

特徴的なのがベルニーです。

映像とのリンク、話者の動きを見ます。

ベルニーはサミュエルを引き寄せて、怪訝な顔をされたので、何でもないよとばかりにすぐに手をぱっと離しました。

C’est pas faux. の字面だけで訳すと「その通り」に近いものになります。

ただ、この場面では「近いよね、僕もそう思った」という軽いリアクションなので、「そうだよね」のような訳が合いそうです。

 

②字数制限

でも、字幕には文字数の制約があります。

話している時間(=尺)に合わせて入れられる日本語の字数のことです。

今の字幕だと、サミュエルのセリフは6文字、ベルニーは3文字。

「そうだよね」だとはみ出し気味なので「だよね」などが候補です。

 

③キャラクター

語尾の「ね」はいわゆる女言葉。

実はベルニーはゲイですが、言動は普段から特別「オネエ」ではありません。

でもベルニーのごつい見た目に反して、ここで少し柔らかい「そうね」が出てくることで、キャラクターのギャップコメディの温度が感じられる気がして、私は好き。

もしこれが男っぽいキャラなら、3文字で候補にできるのは「まあな」「だよな」くらいかと考えます。

 

④翻訳者の頭の中

直訳「間違いではない」

場面に合う日本語に変換「そうだよね」

文字数を削る「だよね」

キャラクターとトーンを合わせる「そうね」

※実際の翻訳者がどう判断したかは分かりません。あくまで私が見て考えた「頭の中」です。

たった3文字の「そうね」にも、意味だけではなく、映像・尺・キャラクター・会話のテンポまで関わってくる。

学習目線だとどうしても C’est pas faux. =「合ってる」までで完結してしまいますが、多方面から言葉を眺め、あらゆる要素を考慮して煮詰めた日本語にする面白さがあると、私は思います。

 

フランス語としても面白い

短いセリフですが、フランス語としても面白いところがあります。よく見ると2文とも否定表現が入ってますよね。

もし素直に言うならこうなります。

On est un peu près là.
C’est vrai.

フランス語では、否定を使うことで、断定を少し和らげる言い方があります。

 

予告と本編では字幕が違う?

同じ場面の字幕なのに、予告編はこうなっていました。

「積極的だな」「任せて!」

特に「任せて!」はその前の「力になってくれ」(これも原文と全く違いますが)の応答になるように作っているようで、予告では度々こうしたことが起こります。

本編と予告を訳す人が違ったり、映画情報がない状態で予告編を訳すことも発生すると聞きました。

予告はとにかく視聴者に「見たい」と思わせる、分かりやすい字幕である必要があり、「製作者の意図を伝える」ことが目的の本編字幕とは、求められる役割も違うのだと思います。

 

映画を観た感想

コメディなのに、突然いい話になっていい意味で裏切られました。
期待はしていたんですけど、期待よりずっと良かったです。
そしてオマール・シーがとにかく大好き。

 

DVD複数枚で借りるなら断然安いので、最近TSUTAYAディスカス中毒です。配信にない映画をたくさん観ています。


このシリーズは自分でも楽しめそうな予感。

次回は『なまいきシャルロット』を取り上げる予定です。

A bientôt !

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